GMT機能はどう使うと便利?



 腕時計には、さまざまな便利機能が付加されているモデルがある。一般的に「GMT」と呼ばれる複雑機能はその代表だ。「GMT」とは、グリニッジ標準時を意味する。かつてイギリスのロンドン郊外、グリニッジ天文台を通過する子午線を基準にして世界各地の標準時や時差に関する国際的なルールが取り決められ、そこから転じて、時計産業では、世界の複数の地域の時刻を表示する機能を「GMT」と総称するようになった。
 スイスの伝統的な機械式時計の技術と革新的な機能を融合して注目を浴びるカール F. ブヘラの「パトラビ トラベルテック」は、GMT機能とクロノグラフ(ストップウォッチ機能。次回の本稿で詳説する)を併せ持つ高級機械式時計だが、GMT機能の使い勝手の良さでは群を抜くモデルである。
 海外出張をイメージしてみよう。東京発のフライトでパリに向かうとする。東京とパリの時差は8時間あるので(サマータイムを考慮しない)、機中で現地時刻に合わせるには、リューズを操作して時針を8時間逆に戻せばよい。このモデルは、時針のみを独立して進めたり戻したりすることが可能なので、時差修正がいとも簡単にできる。24時間で1周するもう一本の赤い時針=GMT針はつねに東京の時刻を示し続けているから、パリに限らず、世界のどの場所に移動しても、日本の時刻はつねにこの針でわかる仕組みになっている。パリから東京に戻る場合は、逆に時針を8時間進めるだけでよい。日付表示もこの時針の変更操作と連動して進み、戻るので、日付変更線をまたいで日本とアメリカを往復する場合であっても、日付修正の必要がまったくない。
 さらに革新的なのは、10時位置のボタンを押すだけで、GMT針に対応する24時間目盛りの時差調整ができること。たとえばパリのほかにニューヨークといった第3の地域の時刻を常時表示させることが可能なのだ。しかも、これから向かう目的地が東か西かに応じて設定を変えられるのもユーザーへの優しい配慮だ。これらすべてを電子的なプログラムではなく、精密な機械式時計の機構によって実現しているところがまた、高級時計ならではの魅力である。

Patravi Traveltec

「パトラビ トラベルテック」。現在10時8分を示している文字盤中央の時針は、リューズの操作により1時間刻みで進めたり戻したりできるので、素早く目的地の現地時間(ローカルタイム)へと修正可能。ステンレススティール、ケース径46.6mm。115万5000円。
7時と8時の間に位置する赤い針がGMT針。日本以外の地域で腕時計を使う場合、この針が日本の時間(ホームタイム)を示し続ける。このメイン写真の場合、文字盤のもっとも外周の24時間目盛りと対応させて15時と読み取れる。分針は時差に関わりなく共通なので、15時8分と読む。
10時位置のプッシュボタンを押せば、外側から2番目の24時間目盛りが回転し、赤いGMT針と対応させて第3時間帯の表示も可能。このメイン写真の場合、19時を示しており、19時8分と読む。